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         》》》 小学校教育が危ない! 《《《

          No.66  2007/8/1

     著者:福嶋隆史 [ふくしま国語塾 主宰 (元小学校教師)]

      著者HP http://www16.ocn.ne.jp/~wildcard/

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 No.66 子どもに主体性を求めるのに、自分たちには主体性がない教師の姿

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目次
【1】……延々と続く「代表委員会」の一場面
【2】……延々と続く「職員会議」の一場面
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【1】延々と続く「代表委員会」の一場面

「ほら、もう4時過ぎたわよ。誰も意見を言わないと、先に進みませんよ」
 A先生は言った。

 代表委員会室は静まり返り、空気は重くよどんでいる。
 残暑厳しい9月の教室…
 全開にした窓から入ってくるうるさいセミの声と、かすかな風にゆれるカー
テンだけが、子どもたちの気を紛らわしてくれる。

 4〜6年生のクラス代表児童、および各委員会の代表児童が、合計して20
人近く集まり、話し合いをしている。
 議題は、「秋の“仲良し大作戦”」をどう進めていくか。

 9割の子どもたちは、やる気が出ない。
 いや、怠け者なのではない。クラス代表、委員会代表になるくらいだから、
多くの子は真面目で、元来意欲的な子どもたちである。
 それなのに、やる気が沸いてこない。

 やる気が出なくて当然だ。
 お仕着せの「仲良し」を教師から求められているだけでも、うんざりだろ
う。
 そこへきて、「大作戦」だって? いったいどんな「作戦」?
 そういう不可解な感覚が、子どもたちの胸のうちには音も無く湧き上がって
いるに違いない。

 そんな中、意見が出ないのは無理もない。

 しかし教師は、そういう子どもたちの本心を知ってか知らずか、また言い放
つ。
「ほら。○○さん。今日、一度も意見言ってないわよ。○○さん、あなたも。
 たてわり班の交流行事なんだから、あなたたち高学年のリーダーがその気に
 なってくれなきゃ、話が先に進まないのよ」

 A先生も、暑いからイライラしてくる。このあとに溜まっている仕事の量も
半端じゃない。ああ、イライラする。
 そこへ、大音量で「下校の放送」が流れる。
「校内に残っている児童のみなさん。下校時刻の4時半になりました。早く下
 校しましょう」
 いつものしとやかな音楽が、A先生のイライラを逆にせき立てる。
 A先生は、教室のスピーカーのボリュームを絞りながら言った。
「もう…! みんないい加減にしなさい! 自分の意見を何も言えない子がど
 うして代表になってるの? クラスで話し合ったことは、もうほかにない
 の?」

 あるはずがない。
 クラスでも、「仲良し大作戦」のアイデアなんて沸くはずが無く、沈滞ムー
ドの学級会だったに決まっているのだから。

 そんなこんなで、代表委員会が終わったのは4時45分。
 “大作戦”のアイデアは、次回に持ち越しとなった。
「先生たちも会議で考えておくけど……ここは、君たちの学校なんだからね」
 A先生のお決まりのセリフを合図に、司会の子が会を閉めた。

* * * * * * * * * * * * * * * *

 B雄とC太、D美とE子は、廊下に出ると大きく深呼吸をし、伸びをした。
「あ〜あ… 代表委員なんて、やらなきゃよかった」
「わたしも、今日はそう感じたナ」
「ランドセルがこんなに重く感じるなんてね…」
「詩みたいなこと言ってる場合じゃないだろ… 早く帰んなきゃ」

 昇降口。B雄とC太は先に走って行ってしまった。

 E子は、上履きをのろのろと靴に履き替えながらつぶやいた。
「そもそも、今日遅れたのって、最初にあれ話してたからだよね」
「あれって?」
とD美。
「だから… “5分前行動”がいいか、“5分前行動を心がける”のがいい
 か、ってやつ。ほら、F郎が遅刻してきたとき、そんな話になったでしょ
 う。A先生が、“それをまず話し合いなさい”って言ったからさ」
「ああ、あれか。そういえば、15分間ぐらい、その“議題”だったよね」

 苦笑いしながら、2人は足早に昇降口を出た。
 校庭では、まだセミがうるさく鳴いていた。

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【2】延々と続く「職員会議」の一場面

「ええっと… 5時を過ぎましたが、このまま会議を続けてよろしいですか」
 3時45分に始まった職員会議。
 いつものように退勤時刻を過ぎ、司会のG先生が言った。
 他の教師たちは無言である。

 校長がボソッと言う。
「もう少し、切りのいいところまでやりましょう。
 いやもちろん、帰らなければならない用のある先生はご遠慮なくどうぞ」

 もちろん、誰も帰らない(帰れない…自分だけ帰れるはずがない)。
 ほぼお決まりの展開だ。

「… では、先生方、もう少しご意見をお願いします」
 G先生が続ける。

 職員室は静まり返り、空気は重くよどんでいる。
 残暑厳しい9月の職員室…
 効きすぎたクーラーに身をふるわせながらも、疲れのせいか、あくびをこら
えている教師たち。
 閉め切った窓の外から聞こえてくるセミの声と、窓の外でかすかな風にゆれ
ている木の葉のたわむれだけが、教師たちの気を紛らわしてくれる。

 月に一度の職員会議。30人近くの教職員がほぼ全員集まっている。
 議題は、11月に行われる「○○小フェスティバル」の実施要項について。

 9割の教師たちは、やる気が出ない。
 いや、怠け者なのではない。教師になるくらいだから、多くは真面目で、元
来意欲的である。
 それなのに、やる気が沸いてこない。

 やる気が出なくて当然だ。

 どうせ、誰も反対意見を言わないから、例年通りになるはずだ。
 反対意見が出たとしても、最終的に決めるのは校長だし、校長は○○フェス
ティバルに積極的だから、結局は例年通りになるだろう。
 それに、ここで意見を言って目立つと、教師間の人間関係を悪くする。
 教師の仕事はチームプレイなんだから、下手に反対意見なんていわないほう
がいい。

 多くの教師は、言葉にならないそのような思いを、胸に抱いているに違いな
い。
 そんな中、意見が出ないのは当たり前だ。

 そこで、司会のG先生が言った。
「A先生、何かありませんか」
「え? そうですねえ……」
 A先生は、苦笑してごまかしながら、無言を貫いた。
 このA先生、さきほどの代表委員会で担当をしていた先生だ。
 子どもたちに対し、意見を持たないことを責めていた、あのA先生である。

 B先生も、C先生も、ほとんど意見らしい意見を言わなかった。

「では、何も意見が出ないようですので、去年の骨子と同様に提案されたこの
 内容で、よろしいでしょうか?」
 しばらくの沈黙のあと、G先生が、重い口を開いた。

 しかし、そこまで言われても、誰も意見を言わない。
 よろしいか、よろしくないか。それさえも、言わない。言えない。

 結局、教師たちもみな、積極的ではないのだ。
 ○○小フェスティバルは、準備が大変なだけ。それによって子どもに学力が
つくわけでもない。
 どの教師も、そんなことはうすうす分かっている。
 でも、「いっそのこと、やめませんか」という抜本的意見を言える教師は居
ない。

 そのとき、ある教師がG先生に視線を送りながら、小さくうなずいた。
 A先生だった。

 G先生は言った。
「ええっと… うなずいている先生もいらっしゃいますし… これでよろしい
 ですね。はい、そうしましょう。校長先生、お願いいたします」

 この、「うなずいている先生もいらっしゃるようですし」は、職員会議が行
き詰まったときの司会の定型句である。たった1人の賛成を、全員の賛成に摩
り替える、姑息な手段。
 まあ、みな無言なのだから、やむをえないともいえるが。

 その後校長が、ゆるゆるとした話をし、だらだらとまとめを述べて、○○小
フェスティバルの議題は結局、通ることとなった。去年のままで。

 会議終了は、5時25分だった。
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(以上はフィクションだが、かなり現実に近い再現だ)
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 (1)と(2)を読み比べてみて、お分かりになったと思う。

 ○○小フェスティバルを「本当はやめたほうがいい」と思っている教師たち
も、校長や他の教師たちの居る会議の場で沈黙を破ることはできなかった。
 同じように、仲良し大作戦を「本当はやりたくない」と思っている子どもた
ちも、教師や他の子たちの居る代表委員会の場で、沈黙を破ることはできな
かった。

 しかし教師は、自分に出来ないことを子どもに求めている。
 自分の主体性のなさを棚に上げて、子どもに主体性を求めている。
 これは、「なわとびを出来ない教師が、その運動能力のなさを棚に上げて、
子どもになわとびを教える」などという話とは、わけが違う。

 後者は、別段問題ないことだ。妊婦の教師が跳び箱を教えたっていいのと同
じ理由だ。教えることは、教える技量さえあれば可能である。
 しかし、前者は、生き方の問題だ。技量の問題ではない。
 生き方は、教師が率先垂範すべきことであろう。

* * * * * * * * * * * * * * * *

 教師は、もし自分が子どもの立場だったら本当に「仲良し大作戦」を楽しみ
にするだろうか、と考えてみるといい。その上で、代表委員会の場で沈黙を
破って意見を言えるのかどうか、考えてみることだ。

 子どもの立場でものを考えるならば、(1)のような風景は、ありえないは
ずなのだ。

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