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        》》》 小学校教育が危ない! 《《《

       No.20  2006/8/16  著者:福嶋隆史

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           No.20 作文指導法を考える
       〜 一文字も書けない子をどう指導するか 〜

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<目次>
◆ まえがき 〜書けない子が生まれる原因は2つ〜
◆ 本論   〜「真似すること」「写すこと」これが最初の一歩である〜
◆ あとがき
◆ 著者プロフィール
◆ 注
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◆ まえがき

 前回書いた「子どもたちの多忙な1日」のドキュメント?の続編は、また後
日書く。
 今回は、国語、とりわけ作文の指導法について考える。

 作文は、書けない子には本当に何も書けない。
 しかし「書きたくない」子は、おそらくどこにもいないだろう。
 だれにだって、“自己表現の欲求”がある。
 どの子も、「書きたい」と思っているはずなのだ。
 それなのに、「書けない」。

 書けない子が生まれる原因は2つ。

 まず、「書く技術」が身についていないから。
 次に、「書く量」「書く体験」が少ないから。

 子どもに技術を身につけさせるのも、書く機会をたくさん与えるのも、教師
の仕事である。
 その2つの仕事を、教師はちゃんと行っているのか。
 残念ながら、行っていない。
 行っているにしても、その順番を間違っている。

 まず「技術」、その後に「量」でなければならない。
 しかし、まず「量」ありき、だと思っている教師が多い。
「とにかくたくさん書けば、いずれ書けるようになる」などと。

 「量」だけを求める教師が、子どもたちを苦しめている。
 日記。読書感想文。遠足・運動会などのあとに書かせる行事作文。
 こういうものを、やみくもに書かせたってダメだ。
 「書く技術」を先に身につけさせない限り、書ける子にはならない。
 むしろ、書くのが嫌いになっていくだけだ。

 では、「書く技術」はどうやって身につけさせていけばよいのか?
 今回は、その指導法の“入り口の入り口”だけを、述べる。
 結論から書くと、その方法とはズバリ、「真似させること」「写させるこ
と」である。
 どんな技術を身につけるにも、それが基本中の基本になる。
 作文もまた、同じなのだ。

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◆ 本論

 一文字も書けない子がいる。
 原稿用紙を前にすると、脳が拒否反応を示すかのようだ。
 どんなアドバイスを与えても、書けない。書いてくれない。
 そういう子を前にして途方にくれている教師は、きっと数え切れないほどい
るはずだ。

 そういう子にはまず、書くという作業自体に慣れさせることが必要である。
 これは、日記・感想文・行事作文などを書かせる以前にやっておくべきこと
である。

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【第1段階】「なぞり書き」

 薄く書かれた文字や文章を、鉛筆でていねいになぞらせる。
 ただそれだけである。

 最近、一部では“写経式学習”などと呼ばれ、大人の間でも流行している。
「えんぴつで書く奥の細道」だとか、「えんぴつで書く百人一首」だとか。
 全部、なぞるのを基本にしている。
 日本国憲法の全文をなぞって書く本もあった。
 これは、単なる流行ではなく、脳科学に裏打ちされた価値ある学習方法だ。

 以前私は学校で、まったく書けない子には、まずなぞらせるようにした。
 赤鉛筆で薄く書いてあげて、「なぞりなさい」と指示するだけ。
 99%の子は、素直になぞる。
 他のどんな指示も聞かず授業に参加しなかった子でも、「なぞる」ことは嫌
がらない。
 やることが明確で、間違いがないからだろう。
 それに、塗り絵などと一緒でだんだんと完成していく喜びがある。
 (ちなみに、大人向けの塗り絵の本が流行しているのもご存知のことと思
う)

 大人向けの「なぞり本」があるくらいだから、当然子ども向けもある。
 というより、子ども向けが元祖だ。

 とはいえ、小学生向けの「なぞり」や「視写」の教材は、意外と学校で使わ
れていない。
 ここで述べているのは、漢字ドリルの「なぞり欄」のことではない。
 教科書の文章そのものを「なぞる」「視写する」教材のことである。
 これを採用している教師は、意外と少ない。
 しかし、そういう教材は、ちゃんと売られているのだ。

 最も優れているのが、光村教育図書の『うつしまるくん』である。
 学校(教師)しか購入できないが、この教材を使えば、どんな騒乱状態のク
ラスでも、さっと静かになる。まさに、シーンとする。
 つまり、それだけ子どもが集中するということだ。
 作文の得意・不得意に関わらず、みな集中する。

 まず「なぞらせる」こと。これこそが、最重要である。

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【第2段階】「視 写」

 お手本の文章を見ながら、それを書き写す。
 これが視写だ。
 教科書の文を少しずつ写させるのが一番よい。

 このとき、次のどちらがよりよい指示・方法だろうか?

A……「教科書を見ながら原稿用紙に写しなさい」
B……あらかじめ教師が原稿用紙に教科書の文を視写しておく。
   「先生が書いたこのお手本を見ながら、原稿用紙にそっくりそのまま、
    写しなさい」

 答えはB。

 やらせてみればわかるが、Aを上手にできる子はきわめて少ない。
 書けない子は当然のことながら、作文が得意な子でさえもうまくできない。
 教科書は、もともと縦横の文字数が原稿用紙と違う上に、ところどころ挿絵
があったりするために、文字数が次々と変わってしまう。
 これでは、写すことに集中できず、混乱するばかりだ。

 しかし、Bならば、まったく同じ位置に同じ言葉や文字を写すだけだから、
ラクにできる。
 これが、視写である。
 視写のキーワードは、「そっくりそのまま」写すということだ。
(だが、Aを平然とやらせ、“できない子だ”と決め付ける教師がいる)

 なお、会話文のカギカッコなどは、子どもが使う原稿用紙にあらかじめ赤鉛
筆で薄く書いておき、なぞれるようにしておく方がいい。
 カッコの位置は、間違えやすい。
 写すときに位置を間違えないようにする配慮だ。
 また、段落最初の1マス下げも、わかりやすく印をつけてあげておく。
 さらに、難しい漢字なども、そのままなぞれるように赤で薄く書いておく。

 教師がこのくらいの労を惜しむようなら、書けない子が書けるようになる日
はやってこない。
 視写教材『うつしまるくん』を採用できればそれにこしたことはないが、都
合でできないことも多いだろう。そういうときは、教師がこのように準備して
あげればいいだけのことだ。

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【第3段階】「対話」と「視写」の組み合わせ

 ここまでお読みになって、疑問がわいた方もいらっしゃるだろう。

「教科書の文を写すのは確かに基本だろうけど、自分の考えや感想を書く作文
 は、写すわけにはいかないだろう。お手本がないし。どうすればいいの?」

 そういうときは、まず対話をする。
 教師が質問し、子どもの記憶をゆさぶり、書く題材を見つけさせる。

――★―― ステップ1 ――★――

「遠足で、一番楽しかったのは、いつだった?」
「う〜ん……お弁当のあと、草っぱらでフリスビーして遊んだときかな」
「ああ、あのときね。ケンジくんとやっていたときのこと?」
「うん、そうそう」
「じゃあ、投げるときと取るときと、どっちが面白かった?」
「う〜ん……投げるのも面白かったけど、取るときのほうがドキドキした
 な…」
「なるほど……ケンジくんの投げたのを、ちゃんと取れた?」
「取れたんだよ! あのね、ケンジね、まっすぐ投げたんだけど、突然カーブ
 して、上の方に浮き上がっていっちゃったんだよ。でも、ぼく、思いっきり
 ジャンプしたら取れたんだよ」

 対話を通して、子どもの頭の中に記憶が鮮明に蘇ってきた。
 チャンスだ。

「じゃあ、その場面から書いてみたら?」

 この時点で半数の子は、「わかった、あとは自分で書く!」と笑顔になりな
がら、自分の机に向かって鉛筆を動かし始めるはずだ。
 しかし、残り半数の子は、この時点でもまだ書けない。
 そのときは、教師が作文の出だしを考え、語ってあげる。

――★―― ステップ2 ――★――

「こういう書き出しはどう?

 『取れるかな……?!
  ぼくは、いっしゅんドキッとした。
  ケンジの投げたフリスビーが、とつぜんカーブしてうき上がったのだ。
  ぼくは、思いっきりジャンプした。
  次のしゅんかん、手の中にフリスビーがあった』

 ちょっとかっこよすぎるかな??」

 この時点で、書ける子は机に向かうだろう。
 教師が話してあげた例文を生かしながらも、自分なりのアレンジを加えて、
書き始めるはずだ。

 しかし、ここでもまだ書けない子は多い。
 脳の作業記憶(ワーキングメモリー)が少ない子(ADHDの子など)は、
教師の例文をあっさりと忘れてしまうからだ。
 教師の例示がたった一文だったとしても、机に向かうまでの数秒で忘れてし
まう。
「あれ、なんだったっけ?」と。

――★―― ステップ3 ――★――

 そういう子には、お手本を書いてあげるとよい。
 さきほどの『  』の例文を、そのまま別の原稿用紙に書いてあげる。
 教師が考えた文章だが、それでいいのだ。
 それを子どもに視写させればよい。
 視写が難しい子には、赤鉛筆で薄く書いてなぞらせてあげればよい。

 ここまでのどの方法でも、子どもは、自分の原稿用紙に自分の手で書いたと
いう事実に、ひとまず安心感を抱く。
 このような子達にとっては、内容云々よりも、まず「自分の手で書いた」と
いう結果そのものが、大きな成果なのだ。

――★―― ステップ4 ――★――

 とはいえ、出だしを教師が作ったから、出来ればあとは子どもに任せたい。
 しかし、書けない子は、視写したあとの続きも、もちろん書けない。
 そういう場合は、さらに対話を続けるのがよいだろう。
(ただし、子ども自身の表現が徐々に生かされるよう、導く必要がある)

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 ただ、このような指導方法の問題点は、丁寧な個別指導が必要だということ
だ。
 つまり、時間がかかる。
 学級には、45分の授業内に原稿用紙数枚を次々と書いて見せに来る子もい
る。
 そういう「できる子」の能力をさらに伸ばすのも、教師の役目だ。
 いつもいつも、書けない子ばかりにかまっているわけにもいかない。

 そこが難しいところだ。
 とはいえ、やはりまず、書けない子を優先すべきだ。
 書ける子への対処法は、いくらでもあるのだから。

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 ちなみに、次のように書き始めるのは冴えない作文である。

「今日は、遠足でした。
 朝、起きたらいい天気でした。
 水筒とお弁当を持って、学校に行きました」

 時系列に順を追って、淡々と当たり前の内容を書く作文。
 どうせ教師が指導するのなら、こんな内容にさせてはいけない。
 さきほどの例示のように、最も気持ちが盛り上がったクライマックスから書
くということ――これも、ひとつの作文技術である。
 教師が例示するときには、くれぐれも注意されたい。

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◆ あとがき

 以上は、まったく鉛筆が動かない、一文字も書けない子に対する指導法だ。
 当然、「そこまでひどくはないが書くのは苦手」という段階の子に対しての
指導法も必要になってくる。

 機を見て、それについてもまた書きたいと思う。

 なお、“指導法”に限定した内容ではないが、国語教育については下記に詳
しく述べてある。
 福嶋のHP内
【子どもに身につけさせたい言語技術の具体例】
 http://www16.ocn.ne.jp/~wildcard/06-mysite-what-is-gengogijutu.html
【なぜ国語教育こそが重要なのか】
 http://www16.ocn.ne.jp/~wildcard/06-mysite-kokugo.html

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