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        》》》 小学校教育が危ない! 《《《

      No.11  2006/6/14  著者:福嶋隆史

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        No.11 愚なるかな、教員採用試験

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<目次>
◆ まえがき
◆ 本論
(1)こんな試験で「すぐれた人材」を選出できるのか
(2)教員採用試験の理想形とは
(3)そもそも、大学の授業がひどい
◆ あとがき
◆ 著者プロフィール
◆ 注
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◆ まえがき

 公立学校の教員採用試験が近い。
 ほとんどの自治体では、7月に試験を実施する。
 あと1ヶ月前後だ。
 教職を目指す若者たちは今頃、必死になって勉強しているのだろう。
 特に、「教職経験者受験」や「社会人選考」ではなく「一般受験」で受ける
若人たちは、大学受験にも似た緊張感に包まれながら、今を過ごしているはず
だ。

 その7月の筆記試験を無事に終え、実技・面接等すべてを経て、苦労の末に
合格(名簿登載)が決まるのは、たいてい10月。赴任校が決定するのは、3
月頃。

 そこまでは、いい。
 そこまでは、希望と夢に満ち溢れている。
 やったぞ! 苦労の末に、合格を勝ち取ったぞ!
 さあ、可愛い子どもたちが待っている。楽しみだなあ。
 いよいよだ。いい教師になろう。
 今まで培ってきたものを発揮して、子どもたちのために全力を尽くそう。

 ところが、4月初旬。
 学級担任をおおせつかり、いざ子どもたちの前に立ってみると、あることに
気がつく。
「いったい、何から始めればいいんだ?」
 具体的な「指導方法」を、何も身につけていなかったのである。
 大学で、たくさんのことを“身につけてきた”はずなのに……

「学級のルールって、何を、どうやって、どんな順に決めていけばいいの?」
「国語って、どうやって教えるの? 教科書には、題材文は書いてあるけど、
 問題が書いてないし…」
「あの子、いつも立ち歩いておしゃべりしてるなあ…でも、注意してばっかり
 だと、嫌われるかな…どうしよう? そうだ、『声が大きくて元気がいいね
 え』って、前向きにほめよう!」
「自分で考えさせる授業がいい、って大学で教わったから、とにかく、教師は
 しゃべらないようにすればいいんだよな……でも、子どもたち、ぽかーんと
 してるなあ……どうしよう?!」

 かくして、学級崩壊する。
 新任教師の9割はクラスを崩壊させる、といわれている。
 その根本原因は、「大学の授業」そして「採用試験」にある。

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◆ 本論

(1)こんな試験で「すぐれた人材」を選出できるのか

 たとえばこんな問題。(小学校教員採用・一次試験の筆記問題)

<1>
 次の教育機関と人物を正しく組み合わせよ。
 シーボルト・  ・昌平坂学問所
   林羅山・  ・鳴滝塾
   …… ・  ・ ……
 答→(×の形に結ぶ)

<2>
 道徳教育では、「人間(a  )の精神」と「(b  )に対する畏敬の念」
をもてるように指導する。
 (   )を埋めよ。
 答→ a…尊重  b…生命

<3>
 不登校児の家に、担任や同級生などが朝に訪問して一緒に登校するよう促し
たり、電話などを使い不登校児の学校に対する距離を近づけるような対応の仕
方をなんというか。
 答→ 接近法

<4>
 いじめが起きたら、どうすればよいか。最適なものを1つ選べ。
a……何が何でも、犯人をみつけて問い詰める。
b……もっと道徳の授業を増やす。
c……正確な事実関係を調べ、学校全体で対処に当たる。
 答→ c

<5>
 イタリアのデザートでないものは次のうちどれか。
a……パンナコッタ
b……ティラミス
c……ナタデココ
 答→ c
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<1>〜<3>は、
 『教職教養の最新3ヵ年(時事通信社)』から引用(一部簡略化した)。
<4><5>は、著者の受験時の記憶をもとに作成。
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 それぞれ、次のような点で、愚問である。

<1> 【現場で何の役にも立たない学問的知識】。
    忘れても、あとで調べれば済むことだ。
<2> 【あくまでも理念】であり、これで現場は変わらない。
<3> 【現場を無視した方法論】。
    これで不登校問題が解決するのか。それにこの方法、フリースクール
    関係者に言わせれば「逆効果の方法」だ。私も同感。
<4> 【教職希望者でなくてもすぐ正解が分かる愚問】。
<5> これも「一般常識」らしいが、正に【瑣末な知識】でしかない。
    試験会場で、これと同様の問題に出遭ったあのときの衝撃は、忘れら
    れない。馬鹿にしてんのか、と。

 ほかにも、各分野の一般常識、専門的教科知識、あるいは教育法規を問うも
のなど、様々にある。
 しかし、たいていは、上記<1>〜<5>のどれかに属する問題。

 無論、知識というものは重要だ。
 知識というのは、思いがけない場面で役に立ってくれるものだ。
 だが、「教師になったあとで本を調べ直しても十分に間に合う(あるいは調
べる必要すらない)」ような知識ばかりが問われているのがいただけない。
 また、多くの試験問題には、「子どもを目の前にして、いざ、どうすべき
か」という切迫した場面(授業場面やトラブル場面)で必要な「教師として不
可欠な技術・方法」を問うものは、ほとんどない。
 たとえば、授業の発問・指示を組み立てる技術。
 あるいは、いじめを見抜くための具体的な目のつけどころ。
 試験では、そういったことを問うべきだ。

 さらに、二次試験で、こんなことを課す自治体もある。
「表現活動」などという課題。

―――受験者5人で、協力して「火山」を表現してください。―――
 どっか〜ん。ずぶずぶずぶ。ぼぼ〜ん。
 あ、逃げろ〜〜。キャー。
 などと、演技をするのである。そして、そのあとで感想を問われる。

「初めて出会う他の4人と、どう協力するか」の過程などを見ているらしい。
 笑わせるな、といいたい。(受験者の多くが同じ意見だった)
 こんなお遊戯で教師を選んでいるから、「授業力のない教師」や「将来のわ
いせつ教師」を見抜くことができないのだ。

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(2)教員採用試験の理想形とは

 私は、試験内容のすべてを否定するわけではない。
 二次試験で課せられる「模擬授業」「討論」「小論文」「面接」などは、大
いに価値があると思う。
★模擬授業を5分もさせれば、その人間の授業力(の素質)がすぐに分かる。
★集団討論をさせれば、教育に対する考え方そのものから、一貫性をもった論
 理展開力、あるいは討論メンバーの意見を聞き取り適確に応答する力にいた
 るまで、多くを読み取れる。
★小論文は、テーマにもよるが、受験者の具体的な教育思想や方針を見るよい
 チャンスである。
★面接は、もちろん重要であり、個々人を見抜く最大の機会である。

 模擬授業、討論、論文、面接。

 これらを重視すれば、すぐれた教師(の卵)はおのずと選出される。
 しかし、問題は、試験の実施順序にある。


 一次 …… 筆記試験
 二次 …… 模擬授業、討論、論文、面接

■■私は、これをまったく逆にすべきだと思う。■■

 一次 …… 模擬授業、討論、論文、面接
 二次 …… 筆記試験


 最初に筆記試験で「足切り」してしまうのが、大きな間違いなのだ。
 ここで、優れた教師の卵の半数が、消えてしまう。
 たまたま、現場で役に立たぬくだらない知識が不足しただけで。
 一方、瑣末な知識をこれでもかと詰め込んできただけで、「教師力」は疑わ
しいような人間を、通過させてしまう。

 もちろん、模擬授業、討論、論文、面接を最初にもってきたら、受験者が何
千人もいる自治体では、とんでもないことになってしまう。
 時間はかかるし、面接官や採点者の人件費も相当高くなるだろう。
 しかし、よく考えてほしい。
 ひとたび採用試験で間違った人選をすれば、どんな結果になるのかを。

 その後30〜40年間、多くの「ひどい教師」に高い給料を与え続けること
になる。
 わいせつ教師や問題教師が生まれ、自治体や教育界全体への評価がぐっと下
がる。
 効果のあがらないつまらない授業によって子どもの学力が低下する。
 子どもの心の成長も滞り、人格の形成という教育の目的そのものが達成され
なくなる。

 それに比べれば、一次試験で全員に討論や面接を課すくらい、どうってこと
はないはずだ。
 一次試験に論文がある自治体もあるが、模擬授業、討論、論文、面接のすべ
てが一次試験に行われるというのは、聞いたことがない。

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(3)そもそも、大学の授業がひどい

 「教師になろう」と夢を持つ若者の多くが知らないことがある。
 それは、「学校は授業の場である」という当然の事実である。

 教職を目指すきっかけは、人によって様々だが、こういうのが多い。
・地域の子ども会や、学童保育でボランティアしたのがきっかけ。
・大学のサークルで人形劇をやって、子どもと触れ合ったのがきっかけ。
・とにかく子どもは可愛いから。

 そのきっかけ自体は、悪いことじゃない。むしろ自然な動機だ。
 だが、問題は無知にある。
「子どもと遊ぶのが好きなら、教師としてやっていける」
 この程度の意識で教職を目指す若者が多すぎる。

 学童保育や子ども会は、遊びの場。
 しかし、学校はまず、授業(勉強)の場。
 授業では、多くの教育技術が不可欠になる。
 そして、場面場面で適切な技術を選択する技能も、必要になる。
 子どもへの愛情だけでは、成り立たない。

 この厳然たる事実を、大学が教えていないのである。

 教育学概論。西洋教育史。教育心理学。
 それもまあ、大切だろう。でも、それだけじゃだめなのだ。
「国語科教育法」等の「教科教育法」もちゃんと科目に入っているが、その教
科書では、教育方法を分類整理しているのみだ。ジャンル分けして、解説して
いるだけ。
 料理で例えよう。
「料理には、煮る、蒸す、焼く、炒める…の方法があります」
と、教科書に細かく分類整理してある。
 しかし、実際に「煮る、蒸す……」を実習する体験は極めて少ない。
 それが、大学の教職課程の授業だ。

 私は、教育実習は1ヶ月では少なすぎると思う。
 1ヶ月のうち半分は、見てるだけだし。
 教育実習というのは、ドラマ・ER(緊急救命室)の舞台であるティーチン
グホスピタルのような場で、もっと長期間、行うべきだ。
 無報酬で実習生を抱え込むのは学校現場にとって負担になるというのなら、
ある程度の給料を与え、働いてもらえばいい。


 あなたなら、次のどちらの医師に、手術を頼みたいだろうか。

【医師A(学問が得意な医師)】
 医学概論/内科医療に尽くした先人たち/虫垂炎の治療の歴史
 ……こういう知識を、たくさん身につけている。

【医師B(技術・技能を持っている医師)】
 手術するときの基礎的技術/虫垂炎の手術の仕方/虫垂炎の手術が失敗した
場合に起こりうる副次的事故と、その際の対応法
 ……こういう技術を、たくさん身につけている。

 当然、Bを選ぶだろう。
 教師を選ぶとしても、同じだ。

 繰り返す。
■授業技術と、それを使いこなす技能。■
 それを実践的に学ぶ場がない大学の授業は、ほとんど意味が無い。

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 ……ここで、こういう意見も聞こえてくる。

「そんなのは、現場で、実際に経験しながら学べばいいことじゃないか」
「OJT(On the Job Training)で済むことだろう」
 まあ確かに、そういう面はある。
 どんな仕事でも、最初から技術がすべて身についているわけがない。

 だが、新任教師というのは、技術が「身についていない」にもほどがある。
 それなのに、ベテラン教師と同じ「担任」という仕事を、1人きりで任され
る。
 子どもにとっては、いい迷惑。親にとっても、また同じだ。
 新任教師が担任になると、保護者の中には「ハズレね〜」と嘆く人がいる。
 態度がいいとはいえないが、無理からぬことだと思う。

 もしこれが、教師ではなく医師だったら、「ハズレね〜」では済まされな
い。
 自分の体を手術する医師が新米医師で、腕が低いとなれば、命が危険にさら
される。
 医師と教師。
 どちらも、同じくらい重要な職業だ。
 1人の人間の未来を決定する仕事だ。
 教師は、医師と同じくらいの覚悟で仕事をしなければならない。
 教師には、医師と同じくらい、「技術・技能の習得」が欠かせない。

 しかし、教職現場の“OJT”は、貧相極まりない。
 教育技術というものを意図的に教えるシステムが、学校内でほとんど確立さ
れていない。
(研修・研究について書いた第2号、第3号に具体例が述べられている)

***

 少なくとも、新任当初からクラス担任をさせるのであれば、大学時代に、
もっと実践的技術を学ばせるべきなのである。

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◆ あとがき

 東京都は、平成16年4月から「教師養成塾」というのを始めた。
 教職志望の大学4年生を対象に、実践的な力を養うのが目的らしい。
 教育実習は、計40日以上行う。(通常の倍ほど)
 「毎週1日」行うと同時に、「5日間連続」の実習を年3回程度実施する。
 これは、価値ある取り組みだと思う。

 直近の採用状況によると、「塾生」100人のうち88人が“受験”し、全
員が教師として合格した。
 要するに、始めから合格が約束されている代わりに、1年間修行しろ、とい
うわけだ。
 具体的な内容はともかくとして、このくらいのことをやってこそ、教師とし
て、担任として、子どもの前に堂々と立つことができるのだと、私は思う。

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