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      No.10  2006/6/7  著者:福嶋隆史

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          No.10 水泳指導の限界

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<目次>
◆ まえがき
◆ 本論
(1)まずなんといっても、教師の指導力不足
(2)絶対的な人数超過と時間不足
◆ あとがき
◆ 注釈 ※1
◆ 著者プロフィール
◆ 注
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◆ まえがき

 学校のプールで使う水道料金の規模は、次のどれか。

1)一万円単位
2)十万円単位
3)百万円単位

 答えは3。
 ひと夏終わるまでには、こんな莫大な金がかかるのである。※1
 これだけの金をかけて、いったいどれだけの成果が上がっているのだろう
か。

 時間の問題もある。
 カリキュラム(教育課程)で水泳指導に割り当てられている10〜12時間
は、本当に有意義なものになっているのだろうか?
 そして、水泳指導のために教師に要される、さらに多くの準備時間は?
 教師同士の打ち合わせ、水質管理研修、水質管理作業、安全研修、救命救急
法研修、用具の保守点検、そして授業そのものの準備。
 これだけの時間を費やして、どれだけの成果を得られているのだろうか。

 金や時間の問題じゃないだろう、という声も聞こえる。
 確かに一理ある。
 価値ある教育活動が行われているなら、金や時間は問題じゃない。

 しかし、結論から言って、多くの学校の水泳指導はその目標を10%も達成
できていないのが現状だ。
 民間の水泳教室で指導を受けている子(つまりプールを習ってる子)だけが
泳げて、それ以外の子は泳げるようにならない。
 せいぜい、夏場の水遊び、子どもの気分転換に終始している。
 1〜2年生は学習指導要領上「水遊び」だからいいとしても、3〜6年生は
それでは済まされない。
 「技能面だけが目標ではない」という声も聞こえるが、そんなの所詮、いい
わけだ。

 使っているのは、親たちの税金。
 使っているのは、貴重な授業時間。そして勤務時間。

 私的極論だが、「授業」で水泳指導をするのは、一切やめたらどうだろう?
 夏休み、希望者だけに、5段階くらいのレベル別少人数制で指導すれば、そ
れで十分だ。
 水泳指導に熟練した教師が最も泳げない子たちを指導し、初任者教師は最も
泳げる子を指導すればよい。
 これが私の結論だ。
 浮いた時間は、すべて国語や算数に充てて、基礎学力定着をはかるべきだ。

 しかし、現実にはそうもいかない。

 今は6月。
 多くの学校で、まもなく水泳指導が始まる。
 楽しみにしている子も多いが、最近では嫌がる子も多い。
 果たして、どんな日々が繰り広げられるのだろうか。

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◆ 本論

(1)まずなんといっても、教師の指導力不足

 最初に、学習指導要領上の目標を確認しておきたい。
 特に技能面についての目標である。

1〜2年生……水遊び
  3年生……浮く・泳ぐ運動
  4年生……クロール及び平泳ぎの技能を身につけ、ある程度続けて泳ぐ
5〜6年生……クロール及び平泳ぎの技能を身につけ、続けて長く泳ぐ

 4〜6年生は、「自己の能力に適した課題を持ち」と書いてはあるものの、
文部科学省が出している「学習指導要領解説(体育編)」によれば、それぞれ
の目安となる距離がはっきりと書いてある。
 4年生は、10〜25m。
 5〜6年生は、25〜50m。

 さてさて。
 これだけの技能を、いったいどれだけの子が達成できているのか。
 私の実感では、だいたい1割ちょっと。
 30人のクラスなら、3〜4人程度だ。
 しかも、それらは最初から泳げる子。
 「泳げなかったのに先生のおかげで泳げるようになりました」という話は、
ほとんど聞いたことがない。

 かく言う私も、そこまで子どもを変容させた経験はわずかしかない。
 しかし、他の教師よりはずっと、努力して指導力向上に励んでいた。

 結局、子どもに泳力が身につかないのには2つの理由がある。
 第1に、指導者の指導力不足(指導者自身が泳げるかどうかとは別)。
 第2に、時間不足と人数超過(一度に教える子が多すぎる)。

 もちろん、子どもたちの基礎体力なども関係するが、それを理由にするのは
教師のあるべき姿ではない。
 「早寝・早起き・朝ごはん」の不足というのもそりゃあるだろうが、それは
あくまで家庭の事情だ。
 まず「自分にできること」を「し尽くす」のが、理想の教師だ。

 私は、第2の理由が解決されれば、泳げない子の7割を泳げるようにできる
自信がある。
 体育(スポーツ)というのは、科学なのだ。
 指導さえ正しければ、驚くような結果が生じる。
 私は、水泳の指導法のビデオを自分で購入し、何度も何度も見た。
 秒単位で映像を止め、指導場面を想定しながらそれを文章に起こし、指導の
ときの「言葉」を一言ずつ全部書き出した。
 水泳授業の前日(というか当日)には、夜中の3時までビデオを見ていたこ
ともある。(教師の体調管理としてはいかがなものか、って? まあまあ。私
タフなんです)

 ビデオだけではない。
 水泳指導関連の本や雑誌を何冊も読んだ。
 自分自身、週に3日はフィットネスクラブに通い、クロールや平泳ぎを練習
した。他人の泳ぎ方を見て、研究もした。

 ここまでしても難しいのが、水泳指導だ。
 果たして、どれだけの教師が、これだけのことをしているのか。
 おそらく、100人に1人いるかいないかだろう。

 多くの教師は、「習うより慣れろです!」なんてごまかしながら、適当に泳
がせて、タイム計って、自分は日焼けがいやだからTシャツを着たまま、水に
も入らずに「がんばれがんばれあと5m!」なんて、プールサイドから応援す
るだけ応援して……
 そういう教師がほとんどなのだ。
 泳げない子(水に顔もつけられない子)に対し、強引に頭をおさえつけて水
中に沈めようとする教師もいた。
 指導力以前の問題だな、これは。

 多少指導力がある教師でも平泳ぎの「あおり足」を口で説明するくらいだ。
(口で説明してできるようになるなら、中学生だって教師の代わりをできる)
 また、地上(プールサイド)で「干上がったカエル」のような格好をさせ、
子どものプライドを傷つけながら練習させる教師もいる。(あんなの、水中で
やらせなければ意味がない)

 平泳ぎの推進力は足、クロールの推進力は手。
 だから、平泳ぎでは壁に手をつくかビート板を持たせるかして足だけをまず
練習させる。
 クロールでは腰にヘルパーをつけ(あるいは同時に足にビート板をはさませ
て)手だけを練習させる。
 そのような基本的な方法も知らない。
(そもそも腰につけるヘルパーが1個も無い学校が多い。私は、その学校で
 は、すぐに公費でヘルパー30個を注文してもらった)
 
 泳げない子には、水かけ遊び→段階的呼吸法→背浮き→背浮きによる推進→
だるま浮き→連続だるま浮き、などの指導手順が必要だ。

 まあとにかく、教師が意図的に指導力を身につけようとしない限り、子ども
の技能の向上はありえない。
 いつまでも、水遊びのままだ。
 そしてまた、水嫌いな子は増えていく一方だ。

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(2) 絶対的な人数超過と時間不足

 なぜ、水泳の授業は2学年同時なのだろう。
 2学年同時でなくても、学年の全クラス同時なのが普通だ。
 子どもが増えれば増えるほど、指導しにくくなるに決まっている。
 教室で30人全員が座っているところで割り算を教えるのでさえ苦労するの
に、120人もの子どもが水をバチャバチャやりながらはしゃいでいるところ
で泳力向上を図る指導ができるはずがない!!
 半分ずつ順番に泳がせたりする工夫は当然としても、だ。
 
 再度問う。
 なぜ、水泳の授業は100人以上の子どもを同時に指導するのか。

 おわかりだろうか。

 それには、やむをえない2つの理由がある。

1……安全確保のため、教師の絶対数が必要だから。

 30人の子どもを指導するにも、教室での授業のように1人で行うわけには
いかない。
 もし子どもが1人溺れれば、教師Aは人工呼吸し、教師Bは職員室に連絡
し、教師Cは他の児童に待機を指示し……というように、複数の人間が必要に
なる。
 しかし、教師の人数はもともと限られている。
 Aは3年1組、Bは3年2組、Cは3年3組の担任だとしたら、3年生の子
どもたちをいっぺんに指導するしかなくなる。だって、3年1組30人の水泳
授業の間、BとCが、自分のクラスの子どもたちを放っておいてAのクラスの
ためにプールに“出張”するわけにはいかないのだから。
 こうして、100人いっぺんの授業が生まれる。

2……1週間でプールを使える時間枠が限られてくるから。

 水泳授業には、1回につき短くとも2時間分の授業時間数を必要とする。
 午前中(1〜4時間目)を2つに分けると、月〜金で10個の時間枠ができ
る。
 しかし、クラス数が10を超えるとなると、クラスごとに枠を1回ずつ使う
というわけにはいかなくなる。
(1学年2クラスなら、2×6学年=12であっという間に10を超える)
 しかも、天気や気温の悪条件を考慮して1週間に2回予定するとなると、ク
ラスごとどころか、学年ごとの授業も難しくなる。
 だから、2学年同時に授業をまとめて行うしかなくなる。

 このような理由で、やむをえず100人超での水泳授業が行われている。
(少なくとも、首都圏では)

 たいてい、教師以外にも補助指導員などが入り、1回の授業には6人ほどの
大人がつくことになるが、それでも6人である。
 教室でさえ苦労するワンパクな子どもたちを、水中で100人。
 これを聞いただけで、無理だとわかる。

 通常は、泳力別に3つほどの「コース」に分け、指導に当たる。
 私は、いつも志願して「最も泳げない子のコース」を担当してきた。
(泳げない子ほど、教師の指導力が必要だからだ)

 しかし、最近の子どもたちは、ほんとに泳げない。
 泳げないコースの人数は、半端じゃなく多い。
 それなのに、プールの使える範囲が狭い。
 「泳げないコース」に割り当てられる面積(水面の面積)は狭い。
 「泳げるコース」の子は、スイスイ泳ぐために、25m×2〜3本を使用す
るからだ。
 だから、泳げない子は、芋を洗う状態で、狭い狭い中、かわりばんこに水に
浸り、なんとかかんとか練習するしかない。
 しかも、指導者は私と、もう1人くらい。
 周囲の安全確保に気遣いながら、1人1人指導する。
 全部で40〜50人くらい。
 てんてこ舞いとは、このことだ。
 さしもの福嶋も、「もう、無理〜〜〜〜〜!」って感じだ。
 終わったときには、声がかすれている。

**********
 
 以上は、人数超過の話。
 そこに、時間不足が加わる。

 上記のような人数超過ゆえ、1人あたりが指導を受ける時間は当然減る。
 そして、そもそもの授業時間数が、せいぜい12時間。
 つまり、6回。
 そのうち、天気や気温・水温の影響で中止になるのが2回ほど。
 場合によっては、6月は1回もなし、7月に2回、9月に2回……それだ
け、なんていう年もあった。
 たったそれだけの授業で、子どもたちが技能を向上させられると思うか?

 毎週1回スイミングでみっちり習っている子が泳げて、あとの子がいつまで
たっても泳げないというのも、無理からぬことだ。

 それに、だ。
 2時間分の授業を使うといっても実質的にはせいぜい50分がいいところ。
 10:30に子どもたちが着替え始め、10:45にプールサイドに集合。
 タオルをかけさせ、人数確認をし、諸注意をし、準備運動をし、シャワーを
浴び……これだけで、もう11:00を過ぎる。
 そこから「水慣れ」で半分ずつプールの横幅を泳がせて11:15。
 そのあと始まる泳力別の指導が終わるのが、11:50。
 その後、再度人数確認、シャワー、目洗い、諸注意で12:05。
 子どもたちは急いで教室に戻り、着替えて、12:15、すぐに給食準備。

 こんな中で、泳力をつけさせようとすること自体、間違いなのだ。

 教師は安全確保にひたすら気を使うだけで終わり。
 子どもはひたすら水遊び(あるいは日光浴)。
 そんな程度が、学校の水泳授業の実態だ。

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◆ あとがき

 それでも、今年も水泳指導が行われる。
 来週あたりプール開きをという学校も多いだろう。
 先生方は、悪天候をひそかに望んだりせず、もっと本を読み、ビデオを見、
学ぶべきだ。
 限られた時間で、1人でも多くの子に、達成感を味わわせてあげなければ、
プロとはいえない。

 一方、親たちには、学校に泳法指導を期待せず、民間の水泳教室に通わせる
か、夏休みに市民プールで飽きるほど泳がせてあげるか、していただきたい。

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◆ 注釈

※1
 水の入れ替え回数により金額は上下する。
 質のよい循環器を使っている学校では、回数が減る。
 また、児童数が多くプールの使用頻度が高ければ、水が白濁する頻度も上が
り、入れ替えの回数も増えるだろう。あるいは、プールの近くに樹木が立ち並
び、落ち葉やゴミ、虫の死骸などが入りやすい環境だと、入れ替え回数が増え
ることもある。

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◆ 注

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