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      》》》 小学校教育が危ない! 《《《

      No.1  2006/4/5  著者:福嶋隆史

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No.1 「”危ない”授業」
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目次
◆ まえがき
◆ ”危ない”授業 〜算数授業の最初の10分間を比較する〜
◆ あとがき
◆ わかる!”業界用語”解説  〜その1【問題解決学習】〜
◆ 著者プロフィール
◆ 注

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◆ まえがき

 私は06年春、小学校教師をやめた。

 これまで、臨時任用教員および正規教員として、複数の都県で、
4つの学校を渡り歩いた。

 その結果、
「このまま教職を続けても、自分のやりたいことはできない」
「このまま教職を続けても、労多くして功少なしだ」
こう確信して、教職を辞する決意を固めた。

 やめたんなら、もう振り返る必要はないだろう?
 なぜ今さら、批判を世に出すのか?
 メルマガで批判なんて書いてないで、教師を続ければいいじゃ
ないか。現場で、現場を変える努力をすればいいじゃないか。

 そういう意見をぶつけてくる人もいる。
 しかしそれらは、私の考えには合わない。

 確かに、20年、30年と教職を続ければ、自分の意見を通し
やすくもなり、現場を変えていけるのかもしれない。
 だが、それとて限界がある。
 地方公務員であり続ける以上、自由は効かない。
 また、意志の強い自分であっても、朱に交わって赤くなってし
まうかもしれない。自分とて、続ければ続けるほど、腐敗してい
くかもしれない。

 私は、それを見切ったからこそ、やめたのだ。

 それに、やめたからこそ見えてくる事実がある。
 やめたからこそ、言えることがある。
 教師のメルマガ数多かれど、本名で出されているものがいった
いどれだけあるだろうか?
 あえて職を辞し本名で世に問う以上、相当な覚悟なのだ。

 たった4つの学校を見ただけで何がわかるのか、と批判する人
もいる。
 だがそれは、見る人間の資質、眼力によるだろう。
 多くの学校を経て35年間教職を続けた「ベテラン」教師にも、
とんでもなく質の低い教師がたくさんいる。
 逆に、経験は少ないが優れた資質を持った若い教師も、少ない
が確実にいる。

 経験ということに関して、念のため書いておく。
 正規教員も臨時任用教員も、仕事内容・責任・給料ともに、す
べて同等である。(自治体によっては給料には多少の差があるよ
うだが、子どもや保護者に対する責任は同じだ)
 違うのは雇用期間の長短ぐらいだ。
 私は、すべての年にクラス担任を受け持った。
 また、学年主任、防災安全主任、教科主任、視聴覚主任等、学
校全体の重要な仕事も数多く果たしてきた。

 私には、多くのことが見える。

 世間ではまだまだ語られていない「現場の事実」を、メルマガ
を通して明らかにしていこうと思う。そしていつかは「本」とし
て世に出せる日が来るのを、心待ちにしている。

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◆ 何が、どう危ないのか?

 最大の問題は、授業の質(≒教師の質)である。

 これから小学校4年生での算数授業の実際の場面を2つ示す。
 チャイムが鳴ってから約10分間の様子だ。
 (1)と(2)、どちらが子どもに学力をつける授業と言える
だろうか。

*****

(1)
 チャイムが鳴って4分後に、教師がゆっくりと入ってくる。
 一応みな席についてはいるが、教室はざわついている。
 教科書を開いて準備万端の子も4〜5人いる。

教師   「はい、日直さん、ごあいさつ」
 子A  「これから、算数のお勉強を、始めます」
 他の子 「はぁ〜じぃ〜めぇ〜まぁ〜〜〜す」
教師   「だめだめ! だらしないよ。もう一度! やり直し」
 子A  「これから、算数のお勉強を、始めます」
 他の子 「は〜じ〜め〜ま〜す」
教師   「Bくん、なにやってるの? まだ教科書を開いちゃ
      だめよ! これからお勉強する内容が、先に分かっ
      ちゃうじゃない」
 子B  「……(閉じる)」(他の子もしぶしぶ閉じる)
教師   「さあみなさん。割り算と言うと、今までは、どんな
      ことを習ったっけ?」
 子ら  「……」
教師   「え〜? 割り算だよ、前習ったでしょ。ほら、思い
      つくことなんでもいいから、言ってみて」
 子C  「はい。割り算は、÷っていうマークを使います」
教師   「そうだねえ。(子どもの意見を板書する)ほかには
      ?」
 子D  「はい。割り算は、計算が難しかったです」
教師   「うん、ちょっと難しいね。でも、そういうことじゃ
      なくて、習ったことを思い出してみて」
 子D  「え、でも、思いつくことなんでも、って言ったじゃ
      ん」(つぶやき)
教師   「ほかには? あらBくん、消しゴムで遊ぶのやめな
      さい!」
 子E  「はい。割り算は、筆算で計算することができます」
教師   「Eくん、よく知ってるわねえ。割り算の筆算はまだ
      習ってないのに」
 子E  「え〜? 公文で、もう習ったよ」
教師   「Eさん、そういうことは言わないの。学校では、ま
      だでしょ。だから、今日はそれをお勉強します。で
      も、まだ教科書を開いちゃだめよ。」

 ここで、10分以上経過。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

(2)
 チャイムと同時に、教師が言う。
 教室は少しざわついているが、かまわず指示する。

教師   「はい、教科書25ページを開きなさい」
 子B  「開きました」
教師   「早いねえ。Bくん、すばらしい! 今日もBくんが
      1番だ」
 子ら  「開きました!」「はい、ぼくも開きました!」……
     <競うように教科書を開く>
     <いつのまにかざわつきは消え全員が教科書を開いて
      いる>
教師   「みなさんで読みます。『割り算の筆算』」
 子ら  「割り算の筆算」
教師   「1番。1番を指で押さえなさい」
      <意識を1番に向けさせる>
教師   「52枚の色紙を、4人で分けます。1人分は何枚に
      なりますか。みなさんで読みます」
 子ら  「52枚の色紙を4人で分けます。1人分は何枚にな
      りますか」
教師   「式をノートに書きなさい。これは簡単だ。どうして
      か分かる?」
 子E  「はい。教科書に書いてあるからです」
教師   「そう! 教科書に書いてある。教科書をちゃんと読
      める人は賢い!」

 このあと、子どもたちは、教師の指示通りに式を書き、筆算を
手順に従ってノートに書いていった。さらに練習問題を1題解き、
子どもたちは教師にノートを見せに行った。教師は、個別に、し
かし素早く、子どもたち1人1人の進度を確認した。

ここまでで約10分。

*****

 言わずもがな、(2)の方が圧倒的に子どもに学力をつけさせ
ることができる。
 (1)の授業では、結局、練習問題までたどり着かなかった。
ただでさえ落ち着きのない子どもは飽き飽きし、最初から教科書
を用意していた意欲のある子も、教科書を閉じろと言われて、や
る気をなくした。
 (2)の授業ではその後、筆算の練習問題を5問解き、さらに
計算ドリルも1ページ進めた。

 たった1つの授業を取ってみても、その差が歴然と分かる。

 さてみなさんは、日本に多いのは(1)と(2)のどちらの授
業だと思われるだろうか。
 圧倒的に、(1)が多い。(1)が、日本の算数授業の9割を
占めていると言っても過言ではない。
 (1)は、いわゆる「問題解決学習(→”業界用語”解説参照
)」と言われる方法を好む教師の授業である。

 ある政令指定都市では、市を挙げて、「問題解決学習」を取り
入れている。信じられるだろうか。

 「子ども主導」の美名の下に、だらだらとした授業を展開する。
「子どもの思いつき」を優先し、教科書を後回しにする。
 教科書に太字で書かれている公式を教えず、それらを子どもに
「自らの力で」「発見させよう」とする教師もいる。
 ピタゴラスでも生み出したいのか。

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◆ あとがき

 このような授業ばかりがはびこる背景には、ほかにも多くの問
題が隠されている。

 初任者研修を始めとした、教師の研修の実態をご存知だろうか。

 いやいや、教師の採用方法からして、すでに間違っている。

 …だが、勘違いしないでほしい。
 教師の多くは、もともと子どもが好きで、「子どものために」
その力を注ごうとしているのだ。
 しかし、うまくいっていない。
 教師たちのやる気を、間違った方向に導いている要因は何なの
か。
 それは、教師の不勉強だけの問題ではない。
 学校というシステム全体の問題でもある。
 大げさに言えば、文部科学省の問題でもある。

 今後、様々な角度から、検証していきたい。


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◆ わかる!”業界用語”解説

その1 【問題解決学習】

 50年以上も前に、スタンフォード大学の数学者、G・ポリア
教授が考え出した学習方法。
(『いかにして問題を解くか』 G・ポリア著 丸善株式会社 
昭和29年発行(現在も入手できます))
 これは、主として大学生のための方法であり、小学生に通用す
るものではない。
 しかし残念ながら、今の日本の算数教育にはこの方法が深く蔓
延している。

 小中学校段階では、まず基本型を身につけそれを活用する技能
を習得するのが先決だ。
 それなのに、「問題解決学習型教師」は、その基本型そのもの
を、最初から考えさせようとするのである。
 当然、年端もゆかぬ子どもたちがそれを考えつくわけもない。

 教師は結局、子どもが絞り出した様々な「独自の公式」や「独
自の意見」では先に進めないので、教科書の結論に強引に持って
いくしかなくなる。
 マル暗記とその活用が授業の中心になるはずの「掛け算九九」
ですらも、その原理を見つけさせるために多くの教師が時間を割
いている。

 あなたは、自動車が走る原理を自分の力で見つけただろうか?
 否。 原理は知らないけれど、自動車をうまく活用しているは
ずだ。運転できるはずだ。

 教習所で習得すべきことは、自動車が動く「原理」ではない。
 自動車をどう運転するかの「技能」なのだ。

 それと同様に、重要なのは、掛け算九九の「原理」の発見より
も、「九九の活用技能」を育てることなのだ。

 ましてや、相手は小学2年生の子どもたちなのだから。

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